忍者ブログ
2026.03.20
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2009.09.19



 朝のこの時間は学生が登校してくるピークである。もちろん学年は入り乱れ正門前はかなりざわついていた。
 そんな中、正門手前にすっと横付けされた黒塗りの一台の車。遠目にでも高級だと分かるそれから出てきた彼に、その様子を見ていた誰もが無駄のない華麗な動作に釘付けになる。
 そしてその注目を一身に受ける人物、跡部景吾は周囲を涼しげな眼差しで軽く見渡し、走り去る車を見送ることなく真っ直ぐに伸びる道を颯爽と歩き出した。

 通りの両側には青々とした木々が植えられ、それらが揺れる様子や葉がさわさわと立てる音は傍に感じていて心地よい。今日は天気も快晴で、薄い雲が少し伸びている程度だ。
 9月半ばのこの時期、たいていの大学はまだ夏休み中なのだろうが、あいにく氷帝学園の大学部は3学期制である。それは2学期制による無駄な長期休暇を減らそうという学校方針であり、中学高校とそうして過ごしてきたから特に違和感もない。しかし授業に付随する予習・復習・レポート・試験は中学高校とは比べ物にならないほどレベルの高いものであり、秋休みが5日間ほどあるもののすべて潰れてしまうのが現状らしい。ここでらしいと言うしか出来ないのはまだ跡部がこの大学の1年生であり、秋休みを経験していないからであるのだが、今までの経験から言えばそれは確実だろうと想像出来るほどに1学期は大変だった。
 今日も今日でレポートの課題が発表される日である。今週1週間は確実に睡眠時間が削られるはずだと思うと思わず溜め息が出そうになってしまうが、学生ならば仕方がない。むしろ嬉しい悲鳴だろうと自分自身に言い聞かせながら、本日の1時限目が行われる教室までの長い道のりを歩いていた。
 すると突然、遠くの方で彼の名を呼ぶ声がした。

「おはよー跡部くん!」
「あぁ、おはよう」
 笑顔で言われたあいさつに俺は手を上げて応える。すると彼女は友人2人に何かを言い、そして俺の元へと走ってきた。彼女は俺に気軽に話しかけてくる数少ない友人のうちの一人である。
 いかにも重そうな鞄を肩に書け、そこから手帳を取り出し開いた彼女は口を開いた。
「跡部くん、掲示板見た?」
 そう言ってぺらぺらとページが捲られていくそれを横から覗き込む。ほぼ全てのコマがぎっしり文字で埋め尽くされている様子はどこか気持ちよささえ感じさせた。
 跡部は首を横に振りながら言った。
「1時限目終わったら行くつもりだが…何かあったのか?」
 と、尋ねたと同時に彼女は手帳のメモ欄のある場所を指差し口を開いた。
「あのね、これなんだけど…今日の4限702号館のA6教室に変更って書いてあったわよ」
「マジかよ…かなり遠いじゃねぇか」
 彼女の言葉に思わず跡部は顔を顰めた。
 そこは同じ大学内でもかなり遠く離れた場所にあり、3限の教室から歩けば10分はかかるところである。
 ちなみに授業の間にある休憩は15分。つまり実質休憩は5分かそれ以下ということである。
「でしょ…ほんとありえないよね」
 口ではそう言いながらも、しかし授業をサボるわけにはいかずに苦笑だけが漏れる。教授が自分の都合で教室をころころと変えるのは今更だったし、そんなことにももうお互いに慣れてしまっていた。
 その後ついでに今日出されていた他の変更や連絡を聞き、それを自分の手帳に書き記していく。そして全てを写し終えぱたりと閉じた手帳は、どことなく重い感じがした。
「サンキュ」
 これで掲示板を見に行く手間が省けたのだから、感謝せずにはいられない。そう言えば彼女は、気にしないで、と笑みを浮かべながら顔を横に振った。
「私も跡部くんにはレポートでお世話になってるし」
「まぁな」
「…謙遜しただけなのに」
「何だ?」
「何でもないわよ…んじゃ私、こっちだから」
 そういって指差されたのは、俺が向かおうとしている方向とは正反対だ。
「あぁ。また後でな」
 そして声を掛けられたときと同じように手を上げれば、彼女は笑顔で俺に背を向けた。そのまま足早に歩いていく彼女の背中を見送りながら上げた手を下ろすと、ふとズボンのポケット手が当たる。そして違和感を感じた。
 するりと手を入れ、その奥にあるものを指で確かめる。小さくて固いそれは、確か昨日ジローからもらったものだ。疲れたときにでも食べようかと今日の朝、机においていたものを偶然手にとったのは、ほんの気まぐれだった。
 それなら、と跡部は咄嗟に彼女を呼び止めた。
「おい!」
 まだ少ししか離れていない距離に、彼女はすぐにこちらを向く。
「何?」
 次あるから早くして、と。
 その言葉が言い終わったと同時に放り投げたそれがすっぽりと彼女の手の中に収まる。
 それは、小さな飴。先ほどのお礼だと、彼女も分かったのだろう。
「ありがとう!」
 明るいその声を背中で受け止め、俺は振り向かずに軽く手を振った。




PR
Post your Comment
Name
Title
Mail
URL
Select Color
Comment
pass  emoji Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Trackback
この記事のトラックバックURL:
  BackHOME 
カレンダー
02 2026/03 04
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31
最新コメント
最新記事
(12/20)
(10/16)
(09/29)
(09/19)
(09/19)
プロフィール
HN:
kanade
性別:
非公開

Wimi wrote all articles.
Powered by Ninja.blog / TemplateDesign by TMP  

忍者ブログ[PR]