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2009.09.29



「こちラ、は空イテい、マス、か?」

 その言葉にちらりと横を見れば、ダークブラウンの髪に深緑の瞳を持った女性が一人。上品な薄い唇に引かれた薄ピンクのルージュが清廉さを引き立てていた。
「……あぁ、」
 どうぞ、と一席埋めていた自分のカバンを左側に寄せる。
「…失礼、しま、ス」
 すると彼女は、小さく頭を下げながらゆっくりと俺と一つ席を置いて腰掛けた。
 …いや、実際に彼女と呼ぶべきなのかは、俺にはよく分からない。
「……」
 俺と彼女の間にある一席にはお互いのカバンがある。そこからゆっくりと取り出される授業資料はもちろん俺が持っているものと同じで、それを持つ指は爪先まで丁寧に手入れされている。とても綺麗だ。
 もちろん、ちゃんと胸もある。足も女性らしい細さで、色も白い。いかにも守ってあげたいと思わせるような弱さと脆さを感じさせる雰囲気を漂わせていた。
「……どう、かしまシタ、か…?」
 すると、いつの間にかじっと見つめていたらしい。声を掛けられはっと顔を上げれば、彼女の瞳はまっすぐこちらを見つめていた。
「…あぁ、悪い」
 気にするなと、そう言えばよく分からないといった表情で返される。そのまま逸らされない視線。普通ならば先ほどの言葉で視線は外されるはずなのだが、こういうタイプはそうはいかないのだろうか。
 それとも、こいつを好きなやつは全てを聞いて欲しいと思っているやつなのだろうか。
 ―――…何考えてんだ、俺は…
 所詮人事だと、そんないらない思考の隅でふと思いついた言い訳に、俺は彼女の授業資料を指差した。
「……お前、ちゃんと授業聞いてるなと思ってな」
 ここ、と指差したのは、彼女の小さなメモ書き。確かこれは前回教授がちらりとだけ話した重要な言葉で、普通なら聞き流してしまいそうなぐらいの何気ない一言だったのだが、それが彼女の資料にはしっかりと記されている。
 頭はよく出来ているらしい、と聡明そうな顔を覗けば。
「あり、がとウ、ございマ、ス」
 ふんわりと、想像通りの笑顔が返された。普通の男が見れば顔を赤らめそうな表情。
 俺の目の前にあるのは、自然な女の表情だ。違和感などどこにもない。
 しかし俺が疑問を感じるのは、ただ一つ。話し方だ。
 彼女は正確に言うと、女であって、女ではない。…いや、女ではないというのはおかしいのかもしれない。女ではないというより、人ではない、と言った方がいいのだろう。
 彼女は、ロボットだ。おそらく、誰かの理想を具現化したロボット。その証拠に容姿が異常に整っている上に聡明だ。性格もおとなしいらしく、こういった女性は世の中の人間を探してもそうそういないだろう。

 彼らロボットは主、つまり彼らを作り出した人の理想を基に作り出されることが多い。容姿、性格、仕草、その全てを思い浮かべながら作り上げていけば、今現在の技術では99%の確率でほぼ理想に叶ったロボットを自分の手で作り出せるとされている。
 もちろん見た目や、肌の質感、髪質、瞳。とにかく全てのパーツが人間にそっくりなのだ。表情も豊かで、涙だって流すように出来ている。それに伴う感情も、思考も、主に制御された範囲内では自由に動くのだ。
 まるで人のように振る舞い、人のように生活する彼ら。もちろん結婚だってできるのだから、もはや人と呼んでもいいのかもしれない。
 しかしただ一つ問題がある。それは、言葉。言葉だけは上手く話せないのだ。
 それが今日まで発展してきたロボットの唯一の欠点であり、またロボットの特徴でもある。
 それに、もう少し言えば、この世界で意思を持つのはロボットだけではないのだ。
 額縁の中の絵画に描かれた人物も、その人物を書いた人間の意識下にある理想通りにその中で動き回る。新聞の写真に写る人々はそれを撮った人の意識の下に動きながら、現場の雰囲気を伝えてくる。
 人でないものが意思を持ち動く。ここはそんな世界。
 しかし、俺は思う。
 人ではない意思を持ったものに自分の理想を重ねて、何が楽しいのだろうか。人に作られたものと会話を交わし、従順な彼らに受け入れられて、何が幸せなのだろうか。
 自分の意思が100%あるからこそ人間であり、人としての意義があり、価値がある。たとえその意思や言葉が内に秘められたものだとしても、内に秘めているのは自らの意思であり、ロボットのようにその選択肢を初めから削除されているのではない。
 今右二つ隣に座っている彼女も、正確に言えば勉強をしたいと思ってここにきているのではない。彼女を作った主が、彼女を勤勉な大学生に作り上げたのだ。



 

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