そう思えば、何故か隣の美しい彼女も途端にただの機械へと成り下がる。全てが正確に行えるという一見完璧なまでの装備が、瞬時に抗えない欠点となる。
俺はそんな彼らを作り出した本人も、作り出されたロボットも、哀れだとは思わない。ロボットを作りたいと思う気持ちも少なからず理解できるし、作り出されたロボットも作り出す彼らがいなければ存在さえしていないのだから。
ただ俺は、受け入れ難いのだ。
そう思うのは決して差別ではないし、偏見でもないと。俺自身はそう言い切りたいと思うのだが、それはこれからも出来そうにない。
ロボットには、制御されていても意思がある。作り出してくれた主を一番大切に思っている気持ちだけはどの作品も変わらない。
なのに、人間は残酷だ。彼らに、飽きてしまう。
飽きる、それは人であればどうしようもない問題なのかもしれない。所詮ロボットは一時の理想を形にしたものであって、理想というものは何かの刺激を受けて徐々に移り変わっていくもの。
最初はもちろん主は彼らを可愛がる。それはもう、壊れないように、壊さないように、と。しかし人は一度手に入れてしまうと、次を求める。もっと違うものを、もっといいものを、もっともっと…と求め続けるうちに、いつしか理想だったそれが理想ではなくなっていく。やがて彼らは、自分の作り出した理想をただの『モノ』として認めるようになり、その瞬間から愛情が冷めていく。
愛情が冷めれば、なくなればどうなるかなんて、分かりきっているのだ。
彼らは『モノ』。あとはただ、捨てられるだけ。
もちろん捨てられないロボットもある。けれどそれはかなり少数で、圧倒的に捨てられるケースが多い。路上やゴミ捨て場など捨てられる場所は様々だが、まだ動くロボットは拾われる場合も多い。しかしそれが問題なのである。捨てられた後にたとえ誰かに拾われたとしても、拾ってくれた新しい主を最後まで受け入れられずに壊れる場合がほとんどだからだ。
何故そうなるのか。理由は単純で、とても美しい。
ロボットは主の理想が映し出されると同時に、ロボットの理想もまた主でしかないのだ。そしてロボットの場合、人間とは違ってその理想が壊れるまで歪むことはない。
そして、彼らは主をどうしようもないほどに愛し過ぎてしまう。
ただ好きで仕方がないのだという、どうしようもない感情を捨て去る術を彼らは持っていない。そういった機構が初めから組み込まれておらず、スイッチも回路も持っていない。
全ては、作り出した人間の仕業。だから…―――
「…それでは、62ページ右図を見てください…」
「………!」
突然飛び込んできた少しハスキーな声にはっと顔を上げる。いつのまにか授業が始まっていた。
幸い予習をしていたから少しぐらいは聞いていなくとも大丈夫だと思ったが、質問しようと思っていた部分の説明はもう通り過ぎてしまったらしい。
―――…終わったら聞きに行くか…
それとも、隣の彼女に見せてもらおうか。
そう思いちらりと再び隣の彼女を見て、再び思い出した先ほどまでの思考。途端に浮かんだ彼女の少し遠い未来に、何とも言えない空しさが心を埋める。
もし仮に捨てられなかったとしても、いつかは動かなくなる。しかも彼らの命は人間よりも格段に短い。
これは、運命だ。
決して変わりはしない。
「……ナニ、か、ありまス、か?」
ふと彼女がこちらを向いた。
多分、視線を感じたのだろう。そう言葉を投げかけられ、俺は首をそっと横に振る。
「…いや」
「そうで、ス、か」
返事を口にする言葉が所々で詰まるのは、彼女がロボットだから。
しかしそれが躊躇っているような、どこか俺を気にしているような響きに聞こえ、思わず込み上げる罪悪感。
しかし先ほどの俺の視線が持ち合わせていた彼女への思いを口にすることは出来ないと、複雑な心境のまま眉を寄せれば、彼女はふわりと笑った。
本当に美しいと思う。綺麗だと、そう思うけれど、彼女はまだ何も知らない。何も分からない。
そして、いつか現実を知るのだと。
口元でそっと笑い返し、今度こそ彼女から視線を逸らし授業に集中しようと黒板の方を見る。教授の指先が綴る白い文字を追い、ノートに素早く書き記しながら、ふと浮かんだ顔。
いつも寂しさを拭えずにいる黒い瞳。
狭い世界に閉じ込められている彼。
今、無性に会いたい、と。
何故か俺は、そんな衝動に駆られた。
