2009.12.20
無事に今日も長かった最後の授業を終え、跡部は図書館へと向かった。来週に提出予定の課題を中途半端に済ませていたので、それを終わらせてしまうためだった。
授業が終わった後の脱力感からか、それとも開放感からか、心持ちゆっくりとなる足取り。図書館は正門の逆方向にあるためか、今の時間では人の流れに逆らっているような感覚になりながら辿り着いた目の前の大きな扉はたいそう重厚な作りで。
「…デカいな…」
跡部はそう声を漏らしたが、ここに来るのは初めてではない。むしろ頻繁に訪れている方だが、おそらく4メートルはあるだろうそれを見上げる度にため息のようなものが込み上げてくる。圧迫されるような、入ってくるなと言われているような気分になるのだ。
ただ、それは決して気分が悪くなるというものでもないのだと、跡部が徐にカバンから取り出したのはカードケース。中身はそのままにそれをセンサーに翳し、自分だけの暗証番号を入力すれば。
…ピーッ…―――
小さな電子音が鳴り、そして目の前の扉が音もなく開いた。以前は扉の開閉に何かが擦れるような音が鳴っていたのだが、誰かが苦情を出したのだろう、それはもう改善されたらしかった。
広がるオレンジの照明。一歩足を踏み入れ、背後で扉が閉まるのを確認しながら、入室したのだからもう用はないとカバンに入れたそれは、通行用のセキュリティカード。何でもこの図書館の地下には珍しい禁書が数多く置いてあるらしく、この大学では図書館と実験棟のみカードと暗証番号がなければ通行できないようになっている。
一歩一歩歩くたび、心地よいカーペットの感触が足の裏から伝わる。ここは相当金がかかっているのだろうなと、まるで人事のように思いながら一番近い机を陣取った。
こうして図書館を訪れるのは、ほぼ毎日のことだ。この時間は生徒も少ないせいか話し声もほとんど聞こえては来ないので、静かで広い空間と膨大な資料が収められているこの場所は、レポートや読書にも最適の空間である。
最初は環境の変化からか、苦手だったこの雰囲気。しかし、一度慣れてしまえばもうこっちのモノだ。
ここにほぼ毎日訪れる理由は、課題を家に持ち帰りたくないという気持ちがある。それに家でやるよりもここでやったほうが充実したものに仕上げられるのは目に見えていたからだ。
しかし、いつだっただろう。ふとしたときに感じた、違和感なくここに馴染んでいる自分。この空間がどこか落ち着くものになっていたのだと気付いてからは、授業を終えたその足でこの場に向かうことが多くなった。
そうして送っていた日々に僅かな変化が訪れたのは、先日のこと。
俺は、彼に出会ったのだ。
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